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   私の体験記    星名久夫   
 
 
トランペットを始めるに当って  表紙に戻る

  これは大人になってからトランペットを始めて、長年間違ったアンブシャー(口の構え、口の周囲の
 筋肉の使い方、舌、唇、顎のコントロール、その他総合的な管楽器の吹き方を意味する)で苦しんだ
 体験を元に書きました。何か、皆様のお役に立てばと思います。

 (練習について)
  トランペットは全ての楽器の中で、過激なスポーツと全く同じ要素を含んだ楽器です。
 だから、トランペットを吹くと気分が爽快になるのですが・・。

 よく休む・・
  トランペットの練習に必要な事は休む事です。つまり、吹くのをやめる事です。
 何を言っているんだ?と思われるかも知れませんが、そこでスポーツを考えてみて下さい。
 100m全力走の練習する時に、立て続けに走る人はいないでしょう。腕相撲をする時に
 立て続けに出来る人はいないでしょう。ちょっと吹いたらすぐ休む。特に初心者は吹く時間よりも
 休む時間を多く取る。5分吹いたら5分以上休む。10分吹いたら10分以上休む。サボりたい人には
 ピッタリの楽器かも知れませ。実は、この休んでいる間に上達します。

  試しに休みを入れずにピアノやバイオリンの様に吹き続けてみて下さい。吹けば吹く程下手になり、
 しまいにはプスッとタイヤの空気が抜けてしまったように音が出なくなってしまいます。

  この吹く時間と休む時間の組み合わせはその人のレベルと、高音をどれだけ使うかによります。
 高音を使う場合は充分な休みを入れる必要があります。

 ウォーミングアップから始める・・
  スポーツと全く一緒ですから、練習の最初は必ず軽くして、高音や大きな音は出さないで、
 又、過度な音の跳躍はせずに、負担の少ない内容から始めます。

  このウオーミングアップの内容はプロでも人により異なるようですが、ロングトーンを中心に
 考えて、リップスラー、タンギング、アタック、と各基礎メニューを自分なりに組み立てて下さい。
 私の場合は童謡を何曲か吹く事によりアンブッシュアーを見つけます。
 尚、ウオーミングアップは楽器を使わなくても出来ます。

 準備体操をしよう・・
  トランペットは全身を使って音を出します。声楽と全く同じです。
 顔だけ力んで高音を出そうとするのは間違っていますし、実際問題として出せません。
 足も含めて、腰、腹筋と全身の組み合わせにより音をコントロールします。
 試しに、少しトランペットを吹いてみてから、次に10分以上体操をしてからもう一度吹いてみて下さい。
 さっきと同じ様に吹いたつもりが、音量、音の艶、音の厚みが全く違う事に自分自身驚くはずです。

  体操は全身の曲げ伸ばし、腕立て伏せ、腹筋、飛び跳ね、連続膝上げ、両手の振り回し、
 肩の脱力・・特に決まりはありません。条件は全身をほぐす事、軽く汗ばむ位する事です。
 そして大きく深呼吸をして肺を刺激しましょう。海で素潜りをする前は必ず何回か深呼吸をします。

 百面相をしよう・・
  顔の体操もしましょう。これ以上大きく開けられない位大きく口を開ける。口を思い切り左右に
 曲げてみる。舌をグーンと突き出してみる。その他何でも工夫してみて下さい。
 これは、本番会場で音を出してウオーミングアップが出来ない時にも役立ちます。

 マッサージをしよう・・
 顎や頬、口の周りから首の周囲まで、さすったり、押したり、揉んだり。
 何度も繰り返しますが、スポーツと全く一緒ですから、こういうマッサージは練習前だけでなく、
 特にタップリと練習した後には入念にした方が良いです。

 立って練習しよう・・
  これについてはアルルのHP内の上達の魔法の講座の中で詳しく書いてありますので、そちらを
 読んで下さい。子供は本能的にあまり無理はしませんが、大人から始める初心者は何とか早く
 吹ける様になりたいと無理をします。その時初心者の段階から座って練習していると、足や、お腹を
 使う事が分からず、顔吹き(顔だけで力んで吹くの最悪の吹き方を身に付けてしまい、
 一生高音は出せない、すぐバテる、音程は不安定、何よりも美しい音が出せないという事になります。

  立つ場合も、気をつけのような姿勢だと腹筋を自由に使えません。両足を開き、足の裏をしっかりと
 床に密着させ、膝を軽く曲げて腰を落とし、上半身を脱力させます。この姿勢で腹筋が自由で
 柔軟になり、横隔膜を動かしやすくなり、ベルカントの呼吸がやり易くなります。
 −当HPの呼吸法のページを読んで下さいー ジャズトランペッターがハイノートを使っている時は必ず
 この姿勢を取っています。テノールがハイCを朗々と歌っている時も足を軸にして上体を支え、上半身は
 脱力し柔らかくしています。

  声楽のレッスンは必ず立ってレッスンをしますし、椅子には座りません。声楽とトランペットは体の
 使い方が共通していますので、声楽の発想をトランペットに取り入れると良いです。

 唇はリード・・
  唇は木管楽器のリード(又は、声楽の声帯)だと思いましょう。吹いている時リードは振動して
 いますが、そのリードを振動させているのは息(空気、風)であり、その息をコントロールして
 いるのは体全体です。
 トランペットは唇で吹く、唇だけで高音を出そうと思っている人は一生上達しません。

  初心者は中音域から練習を始める事を進めます。低音域から練習を始める場合は、
 音は出しやすいのですが、唇を前に出したり、左右に開いたりして、唇の裏側の奥の方(外から見え
 ない部分)を振動させてしまわないように充分注意して下さい。この間違ったアンブッシュアーでも
 一応簡単な曲は吹けますが、すぐ疲れる、高音が出せない、難しい曲は吹けない、何よりも
 トランペット本来の美しい音が出ない、という事になります。今、悩んでいる人は自分が
 マウスピースの中で唇がどのような状態か、どの部分を振動させているか確認して下さい。
 そして、口及び口の周囲の筋肉について、どの部分の筋肉をどの方向に使っているか、
 どの部分の筋肉をリラックスさせて自由に動くようにさせているか、確認する必要があります。


 大人の初心者は、プロや子供の練習とは違った発想が必要
  プロは子供の頃からトランペットを吹いていた人達です。体の機能が体の成長と共にトランペットを
 吹く為に出来上がっています。そして、日々の日常はその今までの蓄積を維持する事が重要課題と
 なります。

  十代の場合は体が成長期ですので、無理をしなくても体の成長と共に演奏能力は向上していきます。

  大人から始める初心者の場合は全く違います。トランペットを吹く為の必要なものは体に全く備わって
 いないどころか、体は成長期を終え日々下降しています。ですから、大人から始める場合は、子供と
 同じ様に無理をしない練習をしているだけでは一向に上達しません。体は日々衰えているのですから。
 発奮して頑張る事が必要となります。

  しかし、そこでスポーツの原則を思い出し、疲れを溜めないよう休む事を練習の大事なメニューとして
 取り入れる必要があります。体に刺激(無理)を与えたら次は休む。このバランスが重要です。
 陸上競技のトレーニングの発想を取り入れることにより、大人(特に中年)から始めても上達が期待
 出来ます。発奮するのには、どうしても吹きたい好きな曲に取り組む事が良いでしょう。
 しかし、焦ると顔吹きになりますから焦らないで下さい。山は高いのです。

 (楽器選び)
  最初から高級品を購入するのはあまりお勧め出来ません。素人目にはシルバーとゴールドの色の
 違いしか分かりませんし、多くの奏者に使われているブランドが必ずしも自分に合うとは限らないから
 です。又、各楽器の違いを感じるのには自分が吹けない事にはどうしようもありません。
 初心者にはその違いが分かりません。しかし、実際には、バイオリンに例えれば体格に合わない
 大きさの楽器で無理な練習をする。重量別のスポーツ競技に例えれば、間違って上の階級に入って
 過酷な戦いを強いられる羽目になる・・・と言ったとんでもない違いが各楽器にあります。
 必ずしも先輩が勧める楽器が良い楽器ではありません。それはその先輩にとって吹きやすい楽器に
 過ぎません。 ではどうしたら良いのか。

  アルルの無料持ち帰りレンタルで始めてみる。もし、自分で買うとしたら信頼出来るメーカーで、
 シルバーで、軽い楽器を選ぶ事を、無難という意味で勧めます。最初の楽器は踏み台と考えて
 お金がもったいなくても、吹ける様になったらもう一台は必ず実際に吹いて選んで買って下さい。
  又、最初は低価格の物を勧めます。高級品は設計の目的が絞られており、自分の体力、
 目的に合わない楽器はその人に取って有害なだけで、何の役にも立ちません。

  自動車を考えてみて下さい。時速300kmが軽く出せる車高の低いスポーツカ−が雪の山道に
 迷い込んだらどうなるか。乗り心地が最高の高級大型外車が軽自動車しか曲がれない東京の
 路地裏に迷い込んだらどうなるか。立ち往生するしかないでしょう。

  トランペットの場合、それ程の大きな違いが、一見して同じにしか見えないボディに隠されています。
 そう言った事が分からずにトランペットに取り組むと、いくらやっても上手く吹けない、いくら頑張っても
 高音が出せない、すぐバテてる、おもしろくない、難しい、挫折する、諦める・・と言う結果になります。

 注意・・この楽器選びの記述はトランペットに限ります。弦楽器等他の楽器には当てはまりません。

 (マウスピースについて)
 最後に、最も厄介なマウスピースについて、幾つか役立つ考えをお伝えします。

  世界的に有名なメーカーが汎用品として基準を示していますが、それは西洋人の骨格、体型による
 ものです。仮に、同じ身長の西洋人と日本人の口を比較した場合、西洋人の口の方が大きいでしょう。
 西洋人の方が肩幅もあり、体力も勝っているはずです。

  トランペットを買う時に高級品を買うと当然の如くマウスピースはついていません。それは、マウス
 ピースは自分の口、体力、音楽上の目的に合わせて自分で選びなさいという事です。

  普及品を買うと当然の如く標準モデルとされるマウスピースがついています。しかし、人の口、
 体力、音楽のジャンルの嗜好、音楽表現の目的に標準があるでしょうか。あるわけありません。

  身長150cmの子がオーケストラ奏者が使うのと同じ有名メーカーの同じ様な大きな
 サイズのマウスピースを使っているのを見ると私は不思議に思います。
 弦楽器は体型に合わせてサイズを大きくしていくのが常識です。
 確かに小さいマウスピースを使うとそれに合わせた吹き方が体に定着してしまいます。
 将来、プロオーケストラのトランペッターを目指すのなら大きいマウスピースを使い、
 それに合わせて自分を成長させるのも一つの考え方でしょう。
 しかし、大人から始める場合、体は下る一方であり、体の成長はもうないのです。

  こういう問題を考えるのはプロですが、世の中のプロ全員がトランペットを子供から始めた
 人達であり、大人から始めた初心者の体験は誰もしていません。
 私の考えでは吹く力が備わっていない初心者は小さめの物を使い、余力が出来て次の段階に
 進みたいと思ったらサイズを大きくする方が自然だと思っています。

  自分の目的を考えましょう。プロ、アマを問わず、オーケストラでトランペットを吹きたいと思ったら
 大きいサイズが必要となります。音量が出せて、音色は重厚で深みがあり、弦楽器、木管楽器とも
 音色が合います。しかし、例えアマオケでも子供から始める事が必要です。

  ポピュラー方面に進みたい場合はクラシックとは全く異なった発想になります。ライブハウスでも
 スタジオ録音でもマイクを使いますので無理して音量を出す必要がありません。
 又、オーケストラ奏者の場合は高らかに吹いた後は休みになりますが、ポピュラーの世界では
 吹き続けなければなりません。しかも負担の大きい高音を頻繁に使います。
 もし、オーケストラ奏者と同じ大きいマウスピースを使ったら間違いなく口を壊すでしょう。
 ですから負担の少ない小さめのマウスピースを使います。
  又、求める音色もクラシックとは全く違います。ジャズは渋め、ポップスは明るさ、ラテンは鋭さ・・。
 いずれにしろ、プロになる為には子供から始めないと無理です。

  自分は初心者だし、オーケストラにも入らない。じゃあ小さい物でいいや・・ それも間違っています。
 自分に合うかどうか・・。そして大きい、小さいは絶対値で決めるのではなく、自分の口、体力との
 相対関係で判断すべきものです。
 ある人には普通でも、別のある人にとっては大き過ぎたり、小さ過ぎたりするわけですから。

  それと、楽器とマウスピースの相性の問題があります。オーケストラを制する重厚さとパワーを
 求めて設計した楽器に、ポップスの軽やかさを求めて設計したマウスピースを組み合わせても
 合うわけがありません。当然の事ながら、楽器と同じメーカーのマウスピースは相性が良いです。

  自分に合うマウスピースを選ぶ事は非常に難しい作業です。これは本人が感じる問題ですから
 先生に聞けば良いという問題ではありません。又、大前提として吹いて違いが分かるレベルが
 必要です。

  もっと厄介なのはそれぞれのマウスピースにはそのマウスピースに合った吹き方が必要で、
 それを身につけるのに何日も、時には何ヶ月もかかるという事です。更に厄介なのは、今使って
 いるマウスピースに自分の吹き方が合わせてしまっているので、それを脱却しないと新しいマウス
 ピースも決められないという事です。

  しかし、買ったトランペットについていたマウスピースが自分に合っている可能性は
 低い訳ですから、いつかは自分の目的にかなったマウスピースを見つけて下さい。
 金管の一流専門店には大量の在庫があり試奏させてくれます。

  一本だけでベストの巡り合いをする事はないでしょう。私は数本買った中で、長所短所が激しくて、
 非常に楽に吹けるけど、どうしても使いこなせなかったある一本が、買ってから1年後の今になって
 一番の愛用品になっています。

  マウスピース一本で今まで出来なかった事が出来て、楽しくなる訳ですから、
 壁に当たっているいると感じている方は迷わず買い換えるべきです。
 私の場合はマウスピースだけでは解決出来なくて楽器も買い換えました。
 そして、前の楽器では出来なかったレベルが楽に出来て夢のような気分を味わいました。
 トランペットを諦めかけていたのが、楽器とマウスピースで解決するとは知りませんでした。
 そのメーカー(Schilke)は価格が高いのが難点ですが、予算オーバーの楽器も一度は試して
 みて下さい。しかし、前の楽器も先生が吹くと物凄く良い音がします。
 メーカーの優劣の問題ではありません。自分に合っているかどうかです。
 
  初心者でマウスピースの事が理解出来なかったら、変速ギアー付きの自転車を思い浮かべて下さい。
 スタート、坂道、高速と目的に合ったギアーを選ぶでしょう。選択を間違えれば、疲れるし、走りにくいし
 無駄な努力をする事になり、目的地に着く前にイヤになってしまいます。

 (注意)マウスピースを単純に大きい、小さいと表現しましたが、実際には複雑な要素を組み合わせて
     設計してあり、各メーカーが膨大な種類を作っています。
     いつか、時間の余裕が出来ましたらマウスピースについて書きたいと思いますが、それまでは
     ご自身で色々な物を試してみて下さい。

 
今後、原稿を追加していきます。お楽しみに。 星名