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  管楽器奏者のための呼吸法
 サックス講師 岸田 佳久  アルル音楽学園
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 音楽表現という原則には、どの楽器にも共通する原則があります。歌も当然です。
 むしろ音楽の原点は歌にあると言っても良いでしょう。例えば、ピアノ、バイオリンを演奏をする時に
 アマチュアは普通に息を吸ったり吐いたりしながら演奏しています。
 しかし、プロは全く違います。
 その曲を歌うのと同じ様に、フレーズに合わせて呼吸をしています。
 岸田先生は管楽器の為のとタイトルをつけましたが、音楽を学ぶ人全てがこのページを読んで下さい。(星名)
 
    呼吸法について(カラオケの声量アップにもつながる)(奥が深い!!) 

  呼吸法に関する説明はいろいろな本に書かれていますが、正しい呼吸法が身につく
 までは、何年もかかるし、言葉で書いてあってもなかなか良い状態になりにくいようです。

  皆さんは「野球入門」などという本を読んで、シュートやカーブを自由に使い分けられますか?
 何度も失敗しながら試行錯誤して上達するものですよね、呼吸法も同じです。
 より深い呼吸をして、体への負担が少ない状態で、ムダのない息の使い方をすることを念頭に
 おいて練習しましょう。今回は出来るだけ初心者に分かりやすくをモットーに説明します。

 
1, 息を吸う時は体の力を抜きながら、すばやく大量に!まず息を吸う時に一番意識するのは
 肺です(当たり前ですが)一般的に使う胸式呼吸を使います。
 ここで大切なのが吸い方のイメージです。肺をダムに例えるとダムの底から水が満水になるまで
 貯まっていくような感覚で、息を肺の底から最上部に向かって溜めていくイメージで吸います。
 腰や内臓に近い肺の部分から少しずつ上に向かって膨らんでいくイメージで息を溜めていきます。
 息を吸い込む感覚よりも溜めていく感覚で吸う方が今まで以上に吸えるようになります。

   管楽器の初心者はこの時点で上半身に力が入ってしまい、この状態で吹き始める人が
 大多数をしめます。(相当量の空気を肺に入れながら脱力していくには可成りの訓練が
 必要です)脱力した状態とは普段皆さんが生活している程度の呼吸で、ちょうど息を吐いた
 瞬間ぐらいの状態を言います。
 大量の息を肺に入れて脱力するには初心者にとっては至難の業ですが、2つの方法で
 脱力する事が可能です。

 1, 先ほど説明した方法で息を吸った後に上下に体をゆすってみます。大体5〜10秒ぐらいで
   上半身の力はぬけるはずです。
 2, 同じく吸った状態でその場でジャンプを数回します。多分4,5回ジャンプすると
   上半身の力はぬけるはずです。

 注意:  どちらの方法でも構いませんが力をぬいている過程では絶対に息を吐かないように
      して下さい。

 10年以上、管楽器を演奏している人は(先生に就いて習ったことがある人)息を吸いながら
 自然に脱力していけるので、体をゆすったりジャンプする必要はありません。

  上半身が脱力すると今まで膨らんでいた肺がしぼんだ様な状態になり反対にお腹等が
 膨らむようになります。これは肺の中に入った空気が上半身を脱力する事により、
 空気が内蔵の方向に落ちます。(横隔膜等が押される)結果的にお腹や背中が膨らむ訳です。
  さて、ここからお腹を使って複式呼吸に切り替えていくわけですが、息を吐くときも
 いろいろな事を考えながらコントロールしていきます。

 
2, 息を吐くときは、吹きつけるのではなく広がった腹や胸が元にもどろうという力を利用する。
  先ほど説明した方法で息を吸い上半身を脱力した後に意識を下っ腹に集中します。
 おへその下約5センチぐらいのところに丹田と言う場所があります。
 ヨガや武道をやっている人は知っていると思いますが、ここを意識して口を開けても息が出ない
 程度に下っ腹で支えます。支えてから息を吐く訳ですが、お腹の支えは息の吐く量に比例して
 支え方を変えてコントロールしていきます。
 それから自分が出したい音色によっても使うお腹の部分が変わります。
 詳しく説明すると可成りのページ数が必要ですので、ここでは最小限の説明にします。
 一般的には下っ腹を斜め下前方に突き出すようなイメージで支えた後に、息の吐く量に
 比例してお腹がお尻の方向にひっこんでいくようにします。

 注意: 適当にお腹をひっこめていくのはダメです。息の量と比例している事と、息を吐く
 タイミングに合ったお腹のコントロールでなければなりません。
 このタイミングが合わないと良い音は残念ながら出ません。
 具体的にはレッスンでその人の呼吸法をみなければ良いアドバイスはしにくいのでご了承下さい。

 
3, 呼吸は曲のテンポに合わせてします
  これは他の人と一緒に演奏したときに合図にもなるし、なにしろリズムを呼吸によって
 乱していたのでは、演奏もうまくいきません。
 たとえば(今後きっと悩むことが多いでしょうが)、思ったときに音が出ないことがよくありませんか?
 そんな人はしっかりとこの呼吸法を身につけましょう。

 
4, 楽器を持たないときにも呼吸法の練習をすること

 
5, 演奏中力いっぱい息を吸ったり、出しきったりしないこと
  余裕を持たせることが、よりスムーズな呼吸の循環を生みます。

 
6, ムラのない息の圧力を持続させる
  これは、唇をつぼめて手のひらに息を吹きかけて試してみるとよくわかります。
 以上のような点をしっかり頭の中に入れておきましょう。もっと詳しく呼吸法を学び
 たい人はスポーツ力学やヨガの本などで勉強しましょう。

   
呼吸法の練習(実践編)

  先程述べた呼吸法の練習の1例をあげておきます。最初に書いたとおりこの練習は身に
 つくのに何カ月または何年もかかるので3日、4日やったのでは効果はありませんので
 あせらず練習しましょう。
  先ほど述べましたが、呼吸は(息を吐くとき)下っ腹を使ってコントロールします。
 大切なのは、息の圧力を一定に保つことと持続させることです。
 このお腹の動きをある程度コントロールすれば、呼吸が良くなります。

 1, 浅い呼吸から深い呼吸へ
  息を吸うのに1秒、出すのに1秒かけます。次に吸うのに2秒、出すのに2秒かけます。
 このようにして3秒、4秒と時間を長くしていきます。6秒くらいまででいいでしょう。
 これは時間をかけて、めいっぱい息を出し入れしてください。自分にとって息の入れ
 られる限度の量がわかると思います。(この練習を続けると量は増えます)。
 息がいっぱいになった状態をよく覚えていてください。

 2、息の出し入れの時間を変える
  1の練習の続き。8秒かけて呼吸をします。まず、4秒吸って4秒でだします。
 次に3秒で吸って5秒でだします。次に2秒と6秒、1秒と7秒というふうに変えていきます。
 ここで注意するのは、1で練習したときに覚えている「息をめいっぱい吸った状態」に
 毎回もっていくことです。となると、1秒で吸って7秒で出すときには、ものすご速さで
 吸わないと間にあわないことがわかります。これが私たちがふだん演奏する時に使うブレスなのです。
 短い時間でより多くの息を吸い、安定した圧力で息を出して演奏しているということなのです。

  もう1つ大切なのは、息をはく時の圧力です。息をめいっぱい吸ってから息を出すと、
 最初にたくさんの息が出てしまい、あとは途切れそうな息になってしまいがちです。
 これをうまくコントロールするには、手のひらに息を吹きかけながら、平均した量の息を出す
 練習をしましょう。すぐ元にもどろうとする横隔膜の力に抵抗を与え、平均させるわけですから、
 お腹の筋力が必要になりますね。
 朝起きたらトイレに行って大きいほうをしませんか?(食事中の人ごめんなさい)そのときのふんばる
 力に非常に似ていると思うのですが、その力を利用して息を平均して出しましょう。
 この状態がきちんと出来ると息の圧力が安定するようになります。

  
さらに呼吸法は続く!!(横隔膜について)

  横隔膜についてよくわからない人は、ここを読んでね。
 まず最初に、横隔膜の存在を確かめてみよう。といっても、横隔膜の存在など絶対に
 わかるわけではないのですが。
 残念ながら、ふつうの人間である以上、自分自身の横隔膜の存在がハッキリつかめて
 いる人は、おそらくいないでしょう。
 そこで、だいたい体がこういう動きをしたときに、横隔膜はこんな動きをするという感覚を紹介します。

 1、鼻にこよりを入れる。または鼻毛を抜く。コショウを嗅いでもよい。クシャミを
   したとき、横隔膜は激しく動いている。
 2、暑い夏の日、犬が日陰で寝そべって、舌をダラリと出してあえいでいる。そのときの
   腹は大きく波打っている。完全な腹式呼吸です。これを真似してみよう。
   口を開けて腹をふくらませたり、へこませたり大きく動かして呼吸をする。
 3、おもちゃの風車を勢いよく吹く。
 4、ロウソク、またはライターの火を強く吹き消す。
 5、みなさんが横になって寝転がっているときは、つねに腹が動いている。
  
   このような状態から横隔膜の存在に気が付くことが出来ます。

  
最後にお腹の支えと力みの違いについて

  呼吸法についてお腹の使い方(支え方)について書いてきましたが、「力んではいけい、
 よけいな体の力は抜くように」などといろいろな本や雑誌に書かれてあります。
 でも、どれくらいの力が支えとして必要なものか、また、どの程度を超えれば力みになるかを
 判断するのは初心者・中級者には容易なことではありません。
 一応自己診断のポイントを書き出してみましたので、みなさんチェックしてみて下さい。

 ●ブレス(息を吸う)のとき、体のあちこちがこわばって息が楽に吸えない。
 ●タンギングをしようとすると喉に力が入る。
 ●腕・指などに必要以上に力が入っていて思うように動かない。
  このような状態に少しでも思い当たる人は、常に上半身をリラックスして吹きましょう。
  また、もう一度呼吸法の最初から読み返してみてください。

  
最後に一言

   呼吸法は身につくのに何年もかかるのであせらずやっていきましょう。
  しかもまだまだ続きがあります。自分の奏法面で息詰まったら、まずは基本にもどりましょう。