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  発表会 ためになる話あれこれ アルル音楽学園
 あがり防止、練習法、プロのテクニック その他いろいろ              星名久夫 記                             

(発表会の参加について)
 音楽教室で独奏の発表会に初めて参加する事は人生の中でも特筆に値するイベントとなります。
極めて特異な例を紹介すると、

 先生にレッスンの時に「出ましょうね」と言われた帰りに、気が動転して他人の靴を履いて帰って
しまった人がいます(別館は靴を脱ぐ)。

 又、発表会当日に自分の演奏が終わった後、帰る時に電車に乗ることも忘れて、知らないはずの
東京の道を夢遊病者の様にさ迷い歩き無事帰還した例も報告されています。
この時は、人間にも鳩と同じ帰巣本能があるのではという説が有力となった次第です。

 と、まあ極端な例を書きましたが、発表会参加の効能を上げると

1、日頃練習しない人も焦って猛練習するので確実に一段階上達する。
   当初甘く考えていた人も発表会が近づくにつれて顔が真剣になってきます。
   終わってみると、前よりうまくなっている自分に気がつきます。
2、自分の演奏を客観的に判断出来る。
   誰でも思い込みというのがあり、頭の中では自分の素晴らしい演奏が鳴っています。
   しかし、発表会後に渡されるビデオを見て現実を知る事はとても大切な事です。
3、人と自分の比較が出来る。
   自分と同レベルの人の演奏を聴く事はとても勉強になります。プロの演奏では差がありすぎて
   目標になりませんが、自分に近いレベル、そして自分より少し上のレベルの人は、
   良きライバル、良き目標となります。

  一人で黙々と練習していてもたいして上達するものではありません。クラスのおさらい会、発表会、
その他の行事に参加し、アルルの合同発表会に必ず参加して、よそのクラスの生徒さんの演奏も
聴いて自分を刺激する事が確実に上達する近道です。


(発表会での失敗について)
 発表会で失敗をしない人は殆どいません。ほぼ全員に共通している事は、些細な失敗を
大失敗と感じてしまう事です。そもそも聴いている人達はプロの演奏会とは全く違う聴き方を
していますので、どんな失敗をしても何とも思わずに聴いています。安心しましょう。

(ビデオについて)
 
発表会直後に自分のビデオを見る事が出来る人は余程自信たっぷりの演奏をした人か、心臓に
毛が生えている人かのどちらかです。むしろ、ビデオを封印してしまい絶対に見ない人が多いの
ですが、1年後に見たら何も映っていなかった例もあります(当局のダビングミスの為)。
一般的に言える事は、直後に自分のビデオを見るとがっかりしてかなり落ち込みます。
しかし、一年後に見ると、よく頑張ってあれだけ弾いたなあ・・と自分で自分に感心したりします。
どちらかと言うと、後者の感想が実体に近いのですが、直後は自己採点の点はかなり辛くなります。


(選曲について)
 大別して二つの考え方があります。
1、背伸びをした選曲をし飛躍を期待する。
   この場合は、少なくとも6ヶ月前には選曲をして練習を開始する必要があります。
2、手が届く範囲の安心な選曲をし、その演奏の深さ、表現力に磨きをかける。
   手が届く範囲というと簡単そうに感じますが、音色も研究し聴衆を感動させる演奏は
   そう簡単に出来るものではありません。しかし、聴く側からすれば聴き易いのはこちらです。

 変った例では、毎年同じ曲を演奏し自分の成長を確認する人や、5年先まで演奏する曲が
決まっている人もいます。
又、発表会が終わると翌年の選曲を始める人もいます。

(緊張とあがり)
 緊張する事とあがる事は似ていますが少々異なります。大勢の前ではプロでも緊張します。
適度な緊張は演奏を研ぎ澄まし、気迫のこもった感動的な演奏となります。
しかし、その緊張が度を越してコントロールを失ってしまった状態があがってしまった状態です。
適度な緊張は集中力を増し、いつも出来なかった所まで出来てしまったりします。
しかし、度を越してあがってしまうと、いつも出来る所まで失敗したりします。
プロは緊張してもめったにあがりませんが、生徒さんの殆どの人はあがってしまいます。


(あがりの原因)
 自宅で練習していてあがってしまう人はいません。失敗しても何も問題が無いからです。
誰も見ていませんから恥をかく心配はありません。共演している人もいませんので
人に迷惑をかける心配もありません。
しかし、本番はお客さんもいますし、先生も聴いていますし、伴奏者もいます。
失敗したら大変です。その心配があがりの主な原因となります。


(あがりの防止)
 あがる事の対極にあるのは自信です。心配と言う不安があがりの原因ですので、
不安を取り除く。すなわち充分過ぎる練習をして演奏に自信を持つ事が一番の
あがりの防止になります。
又、全ての行事に顔を出し年間通じて人前で演奏する機会を出来るだけ多くして、
人前での演奏の場慣れをしておくことが大事です。

(あがりやすい人)
 あがる現象に年齢はほとんど関係ありません。高齢の方でも同じ様にあがります。
しかし、幼児は緊張はしますがあがらないようです。しかし、早熟な子はあがって
しまいます。他人の目を意識する、つまり自意識が芽生えてくると子供でもあがります。
自意識のないロボットはあがりませんが、そういうプログラムを入れておけばあがるかも
しれません。いずれにせよ自意識という厄介な心理があがりを作り出します。
他人を意識する。他人から見られている自分を意識する。そしてうまく弾きたい。
上手だと思われたい。実はあがりの根底に欲があるようです。

(あがった場合の対処)
 心臓がドキンドキンと音を立ててきます。そういう時は、目を瞑りましょう。
人は緊張すると肩で息をしますが、お腹で呼吸しましょう。ベルトを緩めてこれ以上吸
えない位大きくお腹を膨らまして、そして暫く息を我慢してから、今度はゆっくりゆっくり
お腹がすっかり凹むまで息を吐き出します。その時息を自分の手の平に当てて自分の
息を感じます。これを間を置いてゆっくり何回か繰り返します。出来たら立っていないで
椅子に座って行って下さい。座っている方が緊張しないで済みます。

 それでも納まらない時は誰かに首の後ろを揉んでもらいましょう。頭の付け根から肩までよく
揉んでもらうと良いです。先生に揉んでもらうのが一番効果があるでしょう。かなり即効性があり
ます。人は誰でも気を発していますから緊張していない人に揉んでもらうのが一番良いです。
自分で体を動かす事も効果があります。手を握ったり開いたり、手首をブラブラさせたり、
肩を回したり、首を回したり、腕を曲げたり伸ばしたり、上にあげたり、振り回したりします。
あがっている時は血液が緊張のスポットに集中しています。体を動かす事により血液を
分散させて緊張をほぐす作戦です。


 それでも納まらない時は、何も考えないのではなく他の事を考えましょう。どうでもいい
事を考えます。昨日と一昨日の夕食のおかずを思い出してみましょう。一週間前まで思い
出してみましょう。

 それでも緊張が取れない時は、全員緊張しているあの異様な舞台袖を脱出して、直前まで
廊下、ロビーで気楽にしていましょう。

 それでも納まらない時は下の写真の様にツボを押します。
    
方法は簡単で、上の写真の様に腕を押えるだけです。注意して頂きたいのは、これは実際に過度に
緊張していないと効果を確認出来ないと言う事と、押える場所も分からないと言う事です。
今押してみても何も分かりません。発表会当日に緊張が収まらない時に試して下さい。
押える場所は、押えた時にフッと肩の力が抜けて思わず息を吐き出す場所があります。そこです。

 それでも緊張している時は、よーく冷静に考えてみて下さい。そもそも、あなたがプロの
ような素晴らしい演奏をするとは夢にも誰も期待していないのです。安心して下さい。
どんな大失敗をしても地球は止まりませんし、明日も太陽は昇ります。

(当日の服装を決めましょう)
 出来るだけ早く発表会当日の服装を決めておきましょう。服だけでなく靴も決めておいて下さい。
そして、発表会で予定しているのと全く同じ服装、靴で何回か練習して下さい。家の中でも靴を
履いて下さい。アルルのレッスン室でも着替えて練習してみて下さい。特に女性の場合は衣装で
精神状態が変りますし、靴の高さも演奏に大きく影響します。リハーサル会がある場合は必ず
発表会当日の衣装で演奏しましょう。独奏の発表会は年一度の特別なイベントです。やはり、
いつもの格好ではつまりません。衣装によって自分を高揚させて、演奏も特別な演奏を披露しま
しょう。衣装を変えると緊張するとは限りません。気が大きくなり自信と勇気が湧く場合があります。

(お辞儀について)
 ステージマナーとしてお辞儀の場所と仕方は大切です。弾き終わったとたん、お辞儀を忘れて
楽屋へ逃げ帰る人がいます。そういうことがないようにしましょう。

(椅子と譜面台)
 椅子の高さ調節と、譜面台の位置、向き、高さは自分で調節出来るようにしましょう。
緊張していると自分で直す余裕がなくなってしまいます。お辞儀とこれらの調節はレッスンの
時に予行練習しておきましょう。

(直前の練習)
 前日、当日の猛練習はやめましょう。この段階では練習は確認程度にして
気持ちも体も物足り無さを残して、もっと弾きたいという欲求を秘めて本番に臨みましょう。
本番の演奏は限りなくスポーツの試合に近くなります。
気持ちの持って行き方と、疲れを残さない事が重要になります。


(楽譜)
 暗譜か楽譜を見るかは一ヶ月前に結論を出しましょう。暗譜しているけどちょっと心配だからと
当日だけ楽譜を使ってしまうと、脳の回路が初期の譜読み段階と同じになってしまい思わぬ事が
起きます。又、楽譜を使う時は必ずいつも使っている楽譜を使います。メモ書きがしてあるならば
そのメモが絵として自分に焼きついています。本番だけ綺麗な楽譜を使ったり、同じ曲でも編集が
違う(出版社が違う)楽譜を使ったりすると大混乱します。

(失敗からの回復の練習)
 
生徒さんの多くの方は、曲の演奏は最初からでないと出来ません。プロは何処からでも出来ます。
曲の途中から、フレーズの途中から、小節の途中から弾き始めてみましょう。
あるところで演奏(音を出す事)をやめて、声は出さずに頭の中で歌い、あるところで実際の
演奏に戻ってみましょう。この間のリズムの流れはメトロノームで確認し、半拍でもずれる事は
許されません。そういった事がうまく出来ない内は曲が自分のものになっていません。


(練習は何処でも深夜でも出来る)
 発表会前は当然いつもより練習時間が必要ですが、仕事が忙しい、試験だ・・と、なかなか
時間が取れません。しかし、楽器で音を出さなくてもシミュレーション練習の方法を工夫すると
実際の練習以上に効果が上がります。方法は幾らでも考え出せます。
通勤の電車の中でスポーツ新聞ではなく楽譜をひろげる。ウォークマンを聴く。指も動かす。
歌意外は全ての楽器で指を使いますが、シミュレーション練習では指を何かに当てる事が重要です。
自分の腕でもよいし、車、自転車のハンドル、机、物差し、何でも構いません。周りに人がいなければ
鼻歌を歌う。深夜のアパートでも出来るでしょう。歩きながらでも出来ます。

(録音機材を活用する)
 自分の演奏を録音し客観的に聴く事はとても重要です。
熱心な人は毎回のレッスンも録音しています。

(伴奏譜を入手する)
 
慣れない人は前奏を聴いていて出られなかったりします。録音して勉強すると共に楽譜を
読む事も重要です。伴奏譜、間奏譜を縮小コピーして自分の楽譜に貼り付けておくと良いでしょう。
実際にオーケストラのパート譜には、その楽器が出る前の他の楽器の主旋律が小さく豆譜で
書き込まれています。

(プロのテクニック)
 プロがアマチュアと決定的に違うのは、失敗しても絶対に顔に出さない事と、絶対に
弾き直さない事です。リズムは音楽の骨格ですから、引き直す事は音楽の流れとしては
あり得ないのですが、ピアノ、ギターの独奏楽器の人は弾き直してしまいます。
他の楽器の人は伴奏が先に行ってしまいますので焦ります。しかし、どんな時でも
プロは常に頭の中で歌いながら演奏しています。ですから、ミスタッチという表面的な現象
に惑わされる事無く演奏は頭の中の歌と共に中断することなく先に進んで行きます。

 上記の内容と矛盾し難しい話ですが、プロは常に演奏している1,2小節先の音符を
見ながら次の展開を予測し、音色、表現を頭の中で描きながら演奏しています。
アマチュア、特に初心者は頭で考えられる事と目で追う音符が同時進行になります。
自分の目が、今出している音よりも少し先の音符を見ているようになれば確実にレベル
アップします。二つの神経回路を使いながら演奏するのです。難しいですね・・


(良い演奏、良くない演奏)
 客席で聴いていて良い演奏とは、ミスがあるか無いかではなく、曲全体の構成が掴めて
いて
フレーズ感がハッキリし、起承転結に自己主張が込められている演奏です。
良くない演奏はミスが多いとかではなくて、弾いている当人が曲を掴んでいなくて、演奏が
終わっても聴いている人には分からず、演奏者が立ち上がる、叉は構えていた楽器を
下げるまで演奏が終わった事にお客さんが気がつかない演奏です。

(うまくいったかどうか)
 演奏を終えて、お辞儀をする前に拍手が湧き起これば最高です。
お辞儀をしたらやっと拍手が聞こえた・・来年頑張りましょう。

(極一部の熱心な人)
 演奏する曲の作曲家の墓参りに行きます。勿論会社は休暇を取って。
そこまでしなくても作曲家の伝記や、その曲が作られた時代の背景を調べる事は
良い勉強になり、曲に対する興味も増します。

(更に熱心な人)
 その作曲家の母国語を勉強します。日本語は母音が中心で抑揚、リズムがない言葉です。
それに対して西洋の言語は子音が中心で、抑揚が大きく、言葉の流れにリズムがあります。
作曲家の母国語を学ぶ事はその作曲家の音楽も掴み易くなります。